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010 ワハハ本舗株式会社

“おもしろおかしく”を軸に、驚きと笑いを生む「ワハハ本舗株式会社」
おもしろがる能力に長けた劇団員・社員とともに作り出す
観客の期待を上回るショーで、熱狂的なファンを獲得

膨大な衣裳ケース、小道具が所狭しと置かれた稽古場。ここで数々の名作ネタが誕生しました

事務所探訪第10回は、「ワハハ本舗株式会社」です。

お話をうかがったのは、「ワハハ本舗」全作品の作・演出を務める、社長の喰始(たべ・はじめ)さん。

喰さんは20代からバラエティ番組の放送作家として活躍し、コンサートや舞台の演出も手がけてきました。30代で、舞台の演出をきっかけに意気投合した柴田理恵さん、久本雅美さん、佐藤正宏さんら5人の創立メンバーとともに、劇団「ワハハ本舗」を旗揚げ。その5年後の平成元年に、株式会社として事務所を法人化しました。

今回は、劇団結成当時のエピソードから、喰さんの人生哲学まで、貴重なお話をお届けします。

■ 地下の一室、電話1台から始まった「ワハハ本舗」

21歳のとき、日本テレビ系列バラエティ番組『ゲバゲバ90分』で放送作家デビュー。スポーツ新聞の編集や、井上陽水さんのコンサート演出も手がけていました。『仮装大賞』は初回から現在にいたるまで、長年にわたり構成を担当しています
「ワハハ本舗」というのは、久本(雅美)や柴田(理恵)、佐藤(正宏)をはじめ、創立メンバーみんなで宴会をしながら考えた名前なんです。

「大笑いできる場を作りたい」という想いがありましたから、「ワハハ」。「古めかしい感じにしたいね」ということで「本舗」をつけようと。

あと、偶然なんですが、当時、坂田明さんが「Wha-ha-ha」というユニットを作って活動されていたんですよ。坂田さんとは面識があったので、連絡をとって許可をもらいに行きました。

また、「劇団を作るなら、稽古場つきで」と思っていたので、私財を投じて渋谷に事務所兼稽古場を構えました。地下の部屋に、電話1台を置いてね。

事務所スタッフを雇うお金もないので、劇団員が交代で電話番をしていましたし、マネージャーの仕事もしていました。電話がかかってきても、「はい、マネージャーです」と言って応対する。自分が劇団員とは明かさないようにしていました。やっぱり、タレントの場合、マネージャーがいるといないでは、信用度が違いますから。久本のマネージメントを柴田がやったり、柴田のマネージメントを佐藤がやったりと、劇団員がほかのメンバーのマネージメントを担当していました。

当初は僕も、マネージャーなんて大げさなものではありませんが、久本が出るテレビ番組の打ち合わせについて行くことがありました。まだ久本が売れる前のことですね。なぜかというと、やっぱり信用度を上げるためです。

当時はかなりきつい仕事があったそうで、久本はだいぶ堪えていたんですよ。僕も一応、テレビ業界では名の知れた放送作家でしたから、最初だけ顔を出して、「うちの久本をよろしく」とあいさつしていました。

久本にも、「何でも番組スタッフの言うとおりにやらなくていい。これからの時代は、あなたのことをおもしろいと思った制作側から出演依頼をしてくるようになるのだから」と励ましていましたね。

稽古場を兼ねた事務所としてスタートしましたが、その後、事務所を稽古場向かいの建物に移転。現在15名のスタッフで運営しています

■ 採用基準は、信用できる人かどうか、おもしろがれる人かどうか

社員第1号の平間淳さん。会社設立当時は、劇団員のマネージメントのほか、演出助手、小道具作りなどの舞台制作もこなしていたそうです。現在はマネージャー室長としてマネージメント業務を統括しています

しばらくは事務所スタッフなしで運営していましたが、劇団を立ち上げた翌年、下北沢ザ・スズナリで第3回公演『底ぬけ』をやったとき、ボランティアスタッフを募集したんです。そこで、「手伝いたい」というファンが現れた。それが今、チーフマネージャーをしている平間淳です。

彼は最初、舞台のボランティアスタッフとして手伝ってくれていましたが、4年後、会社を設立するときに社員第1号として参加してくれることになりました。それから少しずつ、社員が増えていくことになります。

採用する際は、「絶対に人を裏切らないだろう」という人間を、自分の目で選んでいます。この業界に長くいると、「ええ! あの人が!?」とびっくりするような話を聞くことがあります。だから、有能な人間でなくてもいい。信じられる人間かどうかが重要なんです。そして、やる気があって、僕のやることをおもしろがってくれる人と、一緒に仕事をしたいと思っています。

最近入ってきた社員の中には、異色の経歴をもつのが一人いるんですよ。三岡鉱吉朗といって、もともとは焼津市文化センターの館長をしていて、「焼津でワハハの公演をやってほしい」と招へいしてくれた人なんです。全体公演もやりましたし、「ビートルズで日舞」という、ビートルズの曲に合わせて日舞を踊るコンテストを一緒に開催したりしました。そんなふうにお世話になっていた人なのですが、縁あってワハハに来てくれることになりました。今はマネージャーとして活躍しています。

■ 幻となった海外進出……でも凱旋公演決行!?

稽古場の壁に直に書かれた、喰さんとご縁のある方々のサイン(上写真:井上陽水さん、下写真:上から、谷啓さん、関根勤さん)

会社を設立する前のことですが、ひとつ、実現できなかった公演があったんです。

劇団として売れてきた昭和61年、「サンフランシスコで公演を打たないか」という話がありましたが、コーディネーターの不手際が続いて、結局中止になってしまいました。

でも、そのまま泣き寝入りするのは嫌で、海外進出してもいないのに“凱旋公演”と銘打って、箱根のホテルで上演したんですよ(『芸者ボーイand寿司ガール』)。

そのうえ、海外公演のドキュメンタリー風映像まで作りました。横浜をサンフランシスコに見立てて、赤レンガ倉庫の前で撮影したんです。その中に“劇場帰りの外国人に感想を聞く”というコーナーがあって、テレビ業界で付き合いのある方々にお願いして、外国人風のカツラをつけてもらって、「WAHAHA,It's great!」などとコメントしてもらいました。

そのとき出てくださったのは、青島幸男さん、欽ちゃん(萩本欽一さん)、山本晋也監督、ビートたけしさん、明石家さんまさん、タモリさん、小堺一機さん、シティボーイズ、コント赤信号という、そうそうたる面々で、映像を観たお客さんはかなりびっくりしたと思いますよ。「何なんだ、この劇団は!」と。

■ 最後の最後まで、観客をサービス漬けに!

長期にわたる公演の際、会場に持参するキッチン用品。ワハハ本舗専属シェフを務めるシェフ米山さんが腕をふるい、公演中の劇団員の健康を支えています

事務所を法人化した平成元年には、24時間耐久バスツアー公演『ワハハの脱線スチャラカ珍道中』と題して、行き先を告げないバスツアーをやりました。いわゆるミステリーツアーですね。24時間という言葉どおり、朝から翌朝まで、お客さんをサービス漬けにしました。

バス7台で向かったのは、閑散とした夏場のスキー場。ホテルに到着すると、お芝居をやって、夜は部屋ごとに趣向を凝らした宴会を開きました。例えば、ひと晩じゅうフォークソングを歌う「フォークの部屋」とかね。翌朝、雪のない斜面でフィナーレをやってツアーを締めくくるわけなのですが、お客さんがバスで帰るときまで手を抜きたくなかった。そこで、帰りの山道のところどころに、鹿やうさぎに扮したメンバーが立ち、手を振ってお見送りをしました。さすがにこのときは、お客さんが口をそろえて「楽しかった!」と言ってくれましたね。

今でも、公演の最後には必ずおまけを作っていて、キャストのみんながロビーで“お見送りダンス”をするんです。これは、「お客さんが劇場をあとにする最後の最後までサービスがあったらうれしいだろうな」という考えでやっています。

「自分が観客だったら、ここまでやってくれたらうれしいだろう」ということをしたい。もしかしたら過剰かもしれないけれど、期待以上のことをする。そこまでの心遣いを目にしたら、絶対に気持ちが動かされるし、ファンになってくれる人もいるでしょう。

ただ、お客さんの反応でネタ自体を変えることは基本しません。自分自身が観客の目で「おもしろい」と思えないかぎりダメです。僕は放送作家の仕事もしていますが、視聴率を気にしたことがない。自分のやることを根本から否定したら、ものづくりはできませんから。

■ 自分が「おもしろい」と思うものを信じ、「つまらない」と思うこともおもしろがる

舞台を華やかに彩ってきた衣裳や小道具の数々。名作ネタ「猿のコーラスライン」用の全身タイツも発見

僕は人から人生相談をされることがよくあります。そういう、自分の人生を悲観したり、生き方に迷っていたりする人に、観るように勧めている映画があるんです。

それは、フランク・キャプラ監督の『素晴らしき哉、人生!』(昭和21年)。

クリスマスに起きた奇跡の出来事を描いた作品です。翼のない2級天使が使命を受け、会社や家族の幸せのために命を絶とうとしていた男を助けようとする。「生まれてこなければよかった」と嘆く男に、天使は“彼が生まれてこなかった世界”を見せる。すると男は、その世界の家族や友人を見て、自分一人がいないだけで、まわりの人の人生も一変してしまうことに気づかされる。そして、「もう一度生きたい」と願う。

僕自身も、自分の存在に意味があるのかと落ち込んでいたときがあって、この映画に救われました。

今では不朽の名作といわれているこの映画も、公開当時は酷評されたそうです。でも、ひそかに支援してくれるファンたちがいて、いつの間にかクリスマスの時期にテレビで放送されるようになりました。

どこかで見てくれている人がいるということ。すぐに評価されないからといって、めげないでいいんです。

“自分の思うとおりに、おもしろおかしく、楽しく生きていい”。

そういう生き方、考え方をするようになったのは、子どもの頃に出会った映画や本の影響が大きい気がします。「こんな作品を作っていいんだ!」「何でもないテーマなのに、どうして感動するんだろう?」とか、お笑いじゃないジャンルの作品も含めて、自分の思う“おもしろさ”を形成してきました。

最近、その発想でやった新しいものでは、「コンテンポラリー海外文学」というネタがあります。トルストイ作『戦争と平和』や、カミュ作『異邦人』などの海外文学をコンテンポラリーダンスで表現するというものです。本来笑うものじゃない文学を、あえて笑いに昇華させてみました。

また、やってもいないことを「つまらない」と切り捨てて、“おもしろさ”を見逃すようなことがないようにすることも大事です。「こんな恥ずかしい格好をするのは嫌」「こんな演技はやりたくない」と言う劇団員もいます。でも、試しに一度やってみると、お客さんから「新境地だね、よかったよ」と言われたりする。何に対しても“おもしろがれる能力”が必要だということですね。

■ “密室芸”は、大きい劇場でやるからおもしろい!

“梅ちゃん”こと梅垣義明さんがコンサートで着用するドレス

一般ウケしない、いわゆる“密室芸”と呼ばれるものを、あえて大きな劇場でやる。それがおもしろいんじゃないかと思っています。

代表的なものが梅ちゃん(梅垣義明)のソロコンサート「梅ちゃんの青いシリーズ」です。女装してシャンソンを歌いながらネタをやるというもので、奇抜な衣裳を着て歌ったり、鼻から豆を飛ばしながら歌ったりする。これも、小さい劇場でやっていたら“ただのおもしろい人”になってしまう。大きい劇場でやるから、“この人は何者なの!?”ということになる。

ただ、梅ちゃんも、歌手から役者に方向転換しなければいけない時期にきています。役者メインの道にいかなければ、今後仕事が減ってきてしまうだろうと。そういう話をし始めた頃、ちょうど昨年4~5月、美輪明宏さんが演出・主演された『毛皮のマリー』という舞台に客演させていただく機会がありました。本人もこれを契機に、役者へのシフトチェンジを真剣に考えるようになりました。

歌一本では未来がないと、梅ちゃんもわかっている。だから、梅ちゃんが昨年5~7月の全体公演『ラスト2』の最後に、「これでもうマイクを置きます」と言ったのは、半分ホンキでした。でも、本人はまだステージで歌いたがっていますから、僕も「もう少し続けてもいいよ」と。今年5月から始まる全体公演『ラスト3』では、「やっぱり歌をあきらめきれませんでした!」と帰ってきますよ。

■ 全体公演はラスト、だけどワハハはエンドじゃない

若手劇団員の皆さん。先輩劇団員が歴史を刻んできた稽古場で、熱く議論を交わしていました

『ラスト3』で、全体公演は最後となります。定期的に全体公演を行うルーティンから離れてみて、次にどうなるか考えてみたいと思っています。

それは、年に1回、全体公演のように大きいことをやると、予定が半年も埋まってしまうから。そうすると、自由に動けるのは、残る半年しかない。そういうお決まりのスケジュールを一度まっさらな状態にして、新しいことをやってみたくなったんです。

それに、「若手の劇団員に、先のことを考えるきっかけをつくってあげたい」という想いもあります。決まっていることに向けてがんばるのではなく、先が未定だからこそ、自分で何をしたいか、一から考えてほしい。ワハハを結成した頃の劇団員のように、自分の力で運命を切りひらいていってほしいと願っています。

毎年作製しているというカレンダー。そこには、皆さんの誕生日がずらり。こんなところにも、一人ひとりを大事にする、ワハハ本舗の温かさがにじみ出ているようでした

本当は、平成25年に最初の『ラスト』を作ったとき、「これで終わらせよう」という決意で臨んでいたんです。まさか、『ラスト2』『ラスト3』と続くなんて思ってもみませんでした。もともと再演ものはやらない主義で、全部新作が基本ですから。

ところが、『ラスト』で、お客さんの反応が驚くほどよかったんです。全国どこに行っても、ものすごい歓声で迎えられました。それは今まで経験したことがなかったことで、「もう1、2回は味わいたいなぁ」と意欲が出てしまった。それで、「よし、3部作にするか」と切り替えたんですね。

もし、また、お客さんが強く望んでくれたら、僕の気持ちが変わる可能性はあります。映画『スター・ウォーズ』シリーズもそうでしょう? ファンが熱望したから復活した。だから、先のことはわかりません。ワハハはエンドじゃありませんから。

 

 

 

ワハハ本舗全体公演『ラスト3~最終伝説~』

 ●東京公演:5月24日(水)~28日(日) 
   東京国際フォーラム・ホールC

 ●そのほか全国ツアーあり

  詳細はこちら

  『アジの開きかた、人生のひらき方』

 喰始著 KKベストセラーズ(2013年発売)
  詳細はこちら

 

 

ワハハ本舗株式会社 ホームページ http://wahahahompo.co.jp/

 

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