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「アメリカには映像実演家の著作隣接権がない」って?

『季刊PRE』第10号掲載

 答えは、「はい、そうです」。アメリカには、著作隣接権制度に基づく実演家保護の発想は、そもそも存在しないのです。その著作権法において実演家の権利に関する規定もほとんど見当たりません。とくに映画の著作物に関しては、「work made for hire」法理に基づいて一般的に「職務上の著作物」とされるため、この場合に映画製作者が著作者と見なされ、映画製作に参加する当事者間の書面による取り決めがない限り、すべての権利は映画製作者に帰属されてしまいます。
 じゃ、アメリカでは、実演家およびその実演はまったく何の保護も受けられないのでしょうか。いや、そうではありません。著作権法による保護というよりも、歴史的にアメリカの実演家は、労働法に基づき強力な職業別労働組合を結成し、映画製作者側との団体協約または個人契約などを通して自分たちのさまざまな権益を獲得してきました。その典型的な例は、映画やテレビ俳優たちの労働組合「SAG(Screen Actors Guild)」(※)です。
 今から約90年前のアメリカの映画産業界では、俳優を含む映画製作現場の従業員らと映画製作者との間で、労働条件などをめぐる労使紛争が多発していました。自分たちの権利を勝ち取るためにハリウッドの俳優たちは、1933年6月30日にSAGを設立し、映画製作者側と初めて労働条件および最低賃金などに関する団体協約の締結に成功したのです。以来、およそ80年間にわたって映像実演に携わる俳優たちを代表してきました。本部はロサンゼルスにあり、ニューヨークをはじめとする全米各地に22の支部を置いています。会員の職業は、俳優、歌手、ダンサー、スタント・マン、声優、人形師、モデルなど多岐にわたり、その数は12万人を超えています。
 SAGは、現在その会員である実演家のために、映画をはじめとするさまざまな映像コンテンツの製作者側と、最低賃金および労働条件などに関する団体交渉を行い、また契約履行に関する確認も行っています。とくに映画やテレビ番組の二次利用に関する追加報酬の徴収分配、タレント・エージェントの管理および規制、会員メンバーの記録データ(実演家情報)の管理については、独自のシステムを築き上げています。運営はすべて個人会員の会費だけで賄われており、業務手数料は取っていません。また、実演家の年金および健康保険プランを映像コンテンツの製作者と共同で運営しています。
 SAGの例でわかるように、アメリカの映像実演家は、その実演に関して著作隣接権のような知的所有権は与えられておらず、すべて団体協約と個人契約に基づき権利を主張し保護を受けているのです。

※SAG(全米映画俳優組合):アメリカにおける俳優や歌手などが加盟する労働組合。1933年に俳優の労働環境や適正な賃金などの改善・向上を目的として設立されました。労働条件や賃金、追加報酬などの最低基準を定めた基本協定も制定。www.sag.org

芸団協・実演家著作隣接権センター 事務局長  増山 周

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